《MUMEI》

そうかもしれないな…あんなに可愛らしい男性が存在するワケが無い。

それに、日本に来たばかりで疲れていたから…妖精か何かを見たのかも知れないな…。

そろそろ疲れてきてフロントでの聞き込みを諦めようとしていた所、誰かが駆けつけて来た。

そのスタッフの言っていた話では、彼は臨時のアルバイトだったので連絡先等も分からないという事だった。


彼は存在していた、という事実が分かっただけでも良かった。

部屋に戻るとベッドに腰掛けて、彼の事を考えていたら自然と涙が溢れてきた。

抱きしめた時のあの温もりや、柔らかい唇の感触は覚えている、あれは決して幻では無かった筈だ。

(こっちから、彼の番号も聞いておけばよかった…)

でも、初めから彼のことを色々と詮索するのも野暮だと思ったし…それに彼に夢中になり過ぎてつい聞きそびれていた。

彼の事で、俺がこんな気持ちになるなんて…。

(…そういえば)

彼との少ない会話の中で、普段は花屋でバイトをしてるとか言っていたな。

涙を拭うと早速その微かな記憶を頼りに、持ってきたラップトップ(ノート型PC)を立ち上げマップで周辺の花屋を探した。

「9つもあるのか…」

一応、ホテルの下にある花屋には居ないようなので実質8つなんだろう。


翌日、俺は普段少々人に怖がられるような外見をしているので、もし彼を見つけた時に怖がられないようラフな私服に着替えてみた。

髪を下ろして、目には慣れないコンタクトを装着する。

「兄さん…今日はどうしたの」

可愛いはるかが、俺の姿を心配そうに見上げている。

かなたと武君は朝早くから近くのカフェ通りへデートに出かけたらしい。

「今日は外を散策してみようと思ってな」
「俺が案内しなくて大丈夫?」
「大丈夫だ、この周辺の下調べは地図でちゃんとしたからな」
「兄さんらしいね…」

優しいはるかにキスをすると、ホテルを後にして一人で東京の街を散策しながら周辺の花屋を見て回った。

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