《MUMEI》

途中平山さんが戻ってきても惇は構わず続けた。





俺に話しておくというよりは自分自身の気持ちの整理をしている様子だった。





――今までこんなにも大きな事を一人で抱えてきたなんて…。




相槌さえ打つ事も出来ないまま俺は惇の背中を支えるだけだった。




平山さんも黙ったまま壁に寄りかかりじっと惇の話を聞いていた。





時折目を閉じたり腕を組み直してはいたが最後まで一言も介入してこなかった。








惇は一通り話終えた後、長く息を吐くと、俺の顔をじっと見つめながら言った。






『俺って結構ヤバくない?』




『―――ヤバいかも…な…』



『――付き合うの…止めても…いいし…』


グラビアなんかで見かける整い過ぎた、
作られた、綺麗な笑顔。




いつも素の時はこんな笑い方しない。





もっとくしゃっと、あどけなく笑う。


『――バカか、かえって萌えるし…』


俺はわざとふざけるように惇の額を手の平で押した。




惇は一瞬で真顔になった。






俺は大丈夫だよと、想いを込め、惇に向かい深く頷いた。


すると惇は顔をくしゃっと崩し、いつもの俺に向ける笑顔になった。







『あ〜僕が居るの君たち忘れないでね』





俺は今更照れる気持ちにもなれず思わず笑ってしまった。




惇は恥ずかしそうに…



うつ向いてしまったけど…。




平山さんは会計してくるからねとまた出て行った。

『――いいマネージャーもってんじゃん』

『そう?親みたいでうざいんだけど』


『そりゃそうだろ、親から預かった大切な息子さんなんだから…つかあの人年齢不詳だな、幾つなんだ?』


休日だったせいかトレーナーにジーンズのラフな格好、うすら脱色した髪、背が高くてかなり甘い顔をしている。

普通にタレントでも通用しそうだ。

『45だったと思うけど……、あんなに細いようでいて昔サッカーやってたんだって、Jリーガだったらしいよ』

『へー、知らなかった…あんまり話す機会なかったからなあ』

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