《MUMEI》

「好きな人か、好きな仕事か、迷うわよね」


愛理さんがポツリと言った。


(愛理さん、も?)


「相田さん、学校の先生だものね」


「…商店街の一員だったら良かったのに」


愛理さんが大きくため息をついた。


(どういう事?)


相田さんに『アニバーサリー』をやめろと言われたのだろうか。


(そんな人には見えなかったけど…)


私が首を傾げていると、咲子さんが小声で説明してくれた。


「相田さんに、来年転勤の話が来てるらしいの」


「え?」


私が驚くと、愛理さんが『誤解しないでね』と付け加えた。


「別に貴志は、『アニバーサリー』をやめて付いてきてくれなんて、言ってないわ。
『私の好きなようにしていい』って言ってくれてる。
だから…困ってるの。

私は、どっちも選べないから」


「愛理さん…」


多分、愛理さんは相田さんが言えば、『アニバーサリー』をやめる覚悟はある。

…でも、自分で選べと言われたら、それはできない。

何度も『アニバーサリー』に行ったから、私にも、わかっていた。


愛理さんがどんなに『アニバーサリー』が大切か。


(それに…)


愛理さんがいなくなるのは、寂しい

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