《MUMEI》 「待てよ、」 駆けて行こうとする蓬田の腕を掴む。 おれの―…『蓬田』の手は、『おれ』の腕を掴むには小さかった。 それでも、蓬田は力なく立ち止まった。 「…悪かった、おれ…お前が喜ぶと思って」 ―…蓬田が喜ぶと思って、蓬田の母ちゃんに会わせた。 …でも、逆に辛い思いをさせてしまった。 「…ちが、」 震える声で言って、かぶりを振る蓬田。 「おれ、なんも分かってなかった。…ごめん!!」 おれが頭を下げると、 「違うの!!…かお、上げて?」 蓬田が、今度ははっきりとした声で言った。 おれが顔を上げると、そこには泣き笑いの表情の『おれ』―…蓬田が、いた。 「ちがう。―…嬉しかったの。 嬉しすぎて、泣いちゃったの。…でも、泣いたら椎名くんは怒るでしょう??」 そう言って、いたずらっぽく笑った蓬田を見て、 おれは、生まれて初めての 強い衝動に駆られた。 “だきしめたい” ―…実行には移さなかったけど。 てか、移せねえよ。 …おいおい、『おれ』相手にだぞ?? なんなんだよ、わけ分かんねえ、 この、 気分。 胃の辺りが、急に締め付けられるような、 痛みに似た 感覚。 …笑っちゃうよな。 ばかみてえ。 ―…おれは伸ばしかけた右手を下ろして、 そっと、拳を握り締めた。 前へ |次へ |
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