《MUMEI》

今日はどうせ、もう出る授業もない。



俺は、帰ることにした。



立ち上がると、



「?どこいくの??」



棗も立ち上がって、訊いてきた。



「…買い物」


「買い物??」


「と、バイト」


「バイト!?…してるの!?」



オウム返しに聞いて、棗は驚いた顔をした。



「意外だー!!…なんのバイト!?」


「…警備員」


「…けいびいん!?すごいね!!」



…なにがすごいんだ



「―…でも、そういうのって、高校生でもできるの??」


「…しらない。」



年齢なんか、いくらでも誤魔化しは効く。



夜間の警備は、給料もいいし、人との接触が少ないから気楽だった。



俺が歩き出すと、



「あ、あの!!」



呼び止める声。



「一緒に行っても、いいかな!?…か、買い物とか!!」



俺が振り返ると、棗は照れたように笑って、



「あたしも、買うものがあるんだ!!」



と、言った。



「……勝手にすれば」



俺は、そう答えて歩き出した。



嫌な顔をしなかったのは、


…いや。



できなかったのは、




棗が、


近くにいても、苦にならない―…
むしろ、心地いい人間だったからかもしれない。

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