《MUMEI》

「ぅ///…そ…そんな…優しくしないで…下さい」
「ごめんね…」

やっぱりあの時の事を気にしているのかな…緊張したままのかなた君に優しく微笑みかけると、僕の顔をまるで子犬のように見つめてきた。


「あのっ…先輩に、言わなきゃって思ってたんだけど」
「何だい?」

何かを言おうとしていた唇をキュッと閉じていたが、やがて意を決めたように口を開いた。


「…俺…好きな人が出来たんだ」

「そっか…」


可愛いかなた君に好きな人が出来たのか…。


「良かったじゃないか、おめでとう♪」

そうは言ってみたものの…ちょっと嬉しくもあり、寂しくもあり…。

「どんな子なんだい?」

かなた君が好きになった子なんだから認めないと…でも何だかソワソワしてしまう。

コレって…かなた君のお父さんみたいな気持ちなのかな。

かなた君と一緒に居れば、そんな気持ちにもなるさ…。


「…同級生で、この…学園の人です…で、でもっ俺の気持ち…伝わるか分からないし…」

同級生……同じ学園の……あぁ…そういう事か。



「かなた君…もしその恋が叶ったら…僕の事、男の数に入れなくていいよ…」

どうやらこの前のお風呂で起こった一件の事を気にしていたようで、僕との関係を気に病んでいたようだった。

「そんな事言っても!…先輩は…俺の初めてを…奪ってった人で…」


かなた君の…初めてを…僕が…か…。


勇気を出してその事を僕に告げたかなた君は、今にも泣きそうな顔を見せないように僕から目を背けていた。

「かなた君…」

他の生徒が後ろを通ったので、そっと耳打ちした。

「僕がキミにしたのは、指でだけだよ…」
「えっ…ほ…ホントに?」

ビックリしたようにかなた君が振り返る。

「ホントだよ、キミが湯船で上せちゃった後、抱き上げてベンチに寝かせたんだよ?」
「ホントにそれだけ?」
「ん…それだけだよ、あとキミに”パパ”って言われたけどね」

そう言うとかなた君は色々な恥ずかしさが混ざり合った顔をして、頬をポッと染めていた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫