《MUMEI》

男は軽く頭を下げ、前に出た。

連続S字までのストレートで多少の差を開けるが、ヘアピン手前では追い付かれた。

2サイクル独特の音が、すぐ後ろに聞こえる。
俺が、立ち上がりでアクセルを開けると同時に、待ってましたと言わんばかりに、後ろから「パーーン」と言う音が聞こえる。

下りでは排気量の差は無いに等しい。
むしろ、使いきれるパワーと軽さがものを言う。

ここからは高速コーナーとストレートが混ざる。

ストレートで差を開け、コーナーで追い詰められる。

その繰り返しが続く。
(後ろはかなりストレスが溜まってるだろうな…)

俺も、地元の峠ではそうやってリッターバイクをカモっていた。

それが、今は逆の立場だ。
もちろん、こっちもストレスが溜まっている。

ストレートでも、アクセルを開けるのは一瞬で、ブレーキングの時間のほうが長い。

ようやく、このストレスから解放される時がきた。

駐車場でUターンをして、上りに変わる。

ここからは俺に分がある。
2台は、1コーナーに向かってアクセルを全開にした。

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