《MUMEI》

◆◇◆

 鬼が動く度、結界が揺れる。

(‥どうすれば‥)

 すっ、と白い衣が脇を擦り抜け、彩貴は視線をその方向へ移した。

「!」

 夜桜が、大鬼に歩み寄ろうとしていた。

「何をするつもりだ‥っ」

「結界を緩めてくれ」

「何を馬鹿な‥っ」

「頼む」

「‥‥‥‥‥っ」

 彩貴がやむを得ず結界を緩めると同時に、夜桜は大鬼に近付いた。

「おい‥!」

 彩貴が叫ぶ。

 だが聞こえていないかのように、夜桜は歩みを進める。

 鬼の側に来ると、彼女は上を見上げた。

 そして、確信した。

 右の額から瞼、頬にかけて、未だ癒えない大きな傷跡が残されている。

「彩貴」

「っ‥?」

「いいか。何が起こっても‥この鬼には絶対に手を出すな」

◆◇◆

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