《MUMEI》

「蝶子ちゃん? 着いたよ」

「あ、うん」


(いけないいけない)


私は、頭を切り替える為に、『赤岩』の入口で深呼吸をした。


そんな私をせいこちゃんは不思議そうに見つめていた。


(よし、行くわよ)


ガラッ


「こんにちは…」


「いらっしゃいませ」


控え目に挨拶した私に向かって、丁寧に挨拶してきた女性がいた。


(この人が、律子さんね)


私は目の前の女性を見つめた。


身長は、夏樹さんと同じ位、高い。


長い黒髪をきちんと後ろで一つに束ねていて、化粧も控え目な感じだった。


(いかにも、『学級委員でした』って感じの人だなぁ)


眼鏡をかけていて、知的な顔立ちをしていたから、余計にそう思えた。


「? あの?」


「あ、すみません」


(ジロジロ見すぎたかな?)

「いえ、お好きな席にどうぞ」


「ありがとうございます」

私はせいこちゃんを連れて、厨房の見えるテーブル席に移動した。


チラッと時計を見ると、今は午後一時半だった。


昼の営業は二時半までで、オーダーストップは二時だから、お客の姿も少なくなってきていた。


「ご注文は何になさいますか?」

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