《MUMEI》

蕎麦茶を持ってきた律子さんに、私は『ざるそば二つと天ぷらの盛り合わせ一つお願いします』と注文した。


「かしこまりました」


ペコリと頭を下げて、律子さんは厨房に入っていった。


「ぶあいそうな人だね」


(確かに…)


小声で私に囁くせいこちゃんに、私は苦笑した。


一生懸命頑張っているのはわかるが、『赤岩』の接客としては、固すぎるし、笑顔もあまりなかった。


(OLさんらしいし、仕方ないわよね)


そして、私には接客態度の他に、もう一つ気になる事があった。


数分後。


「いらっしゃい、蝶子ちゃん! 珍しいね、えっと…」


双子の見分けがつかない勇さんに向かって、せいこちゃんは『やこです』と言った。


「あ、そうそう!やこちゃんだ!」


「勇さん、からかわれてますよ。
せいこちゃんです」


「え?」


私の言葉に勇さんが驚くと、せいこちゃんが悪戯っぽく笑った。


「ひどいな〜、あ、俺達も一緒に食べていい?」


『いい』と言う前に、勇さんは明らかに四人分の食事を置いていく。


「私達が頼んだの、ざるそば二つと天ぷら一つだけなんですけど…」


「サービスサービス」

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