《MUMEI》

「おい、タマ!」

一回で30秒以内に来ないとぶん殴られるのは実証済みだ。(先程、鼻が発毛し、両手で押さえながらトイレに駆け込んだ。)

「はい!なんでしょうか。」

氷室様は僕に荷物持ちや雑務を任せた。

「昼飯、買ってこい。
今日は弁当がいい。肉の入っていないやつ。
あと、メロンパン」

「はい。」

授業を抜けてでも必ず指示されたものを買いに行こう。殴られるの恐すぎる。

にしても、メロンパン……氷室様には奇っ怪な取り合わせだ。
氷室様の口からあんな可愛い響きが生まれるとは。

「氷室様と明石君仲が良いねえ?」

隣の席の渡部君に声を掛けられた。
気付いたのだが、何故かこの学校は教師までも「氷室様」と呼ぶ。

「そ、そうかなー……。」

これ、立派な虐めだと思うよ。

「羨ましいなあ。」

「おえ?!」

あまりに驚いて左腕の毛が10センチ程発毛した。
袖が長くて良かった……。

「氷室様は皆の憧れだよ?」

渡部君の語りを短縮すると、氷室様は孤児として施設で育っていたがその頃から天才の片鱗を見せていて、さる財閥の会長が是非彼を後継者にしたいと養子にしたらしい。

「へぇ、凄い人なんだ。」

氷室様がなんか凄いのは分かりました。

「凄いなんてもんじゃないんだよ!博士号取っちゃうくらいの天才だし、運動神経だって大会総ナメにしちゃうしおまけに眉目秀麗だもの。
涼しげに何でも熟してしまうから“氷の皇帝”という異名を持っていて、その敬意を込めて“氷室様”って呼んでいるんだ。」

渡部君の語りは半ば狂信的だ。

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