《MUMEI》

昼は氷室様は図書準備室を貸し切って食べるらしい。

「氷室様、お弁当とメロンパンです。」

ちょっと歩いた所に無添加のお惣菜屋さんがあり、そこのお弁当を買ってきた。

それと天然酵母の焼きたてメロンパン……。
どちらも冷めないうちにと走って買ってきた。

「ふーん……貴様は主人に潰れたメロンパンを食わせるのか?」

氷室様はメロンパンを顔面に投げ付けて来た。

「ぎゃっ……!」

発毛した睫毛で受けた。

「こんなもん食えない。
処理しとけ。」

処理って、勿体ない……。
僕、自分の分買い忘れたのに……。





ぐぎゅるるる

「はう!」

お腹が鳴った恥ずかしさでまた睫毛が発毛した。

睫毛を箸で摘まれる。
僕は氷室様から離れたくて鋏で睫毛を切る。

「逃げるな!」

首輪に鎖を通された。

「ギャー」

にーさんみたいに爪を立てて逃げ回りたい気分。

鎖で俺を手繰り寄せてくる。

「もがっ……!」

メロンパンを口突っ込んできた。

「動くな、瞼切るぞ?」

俺が逃亡に用いた鋏を目の前に翳してきた。氷室様は器用に髪切り用の鋏で僕の睫毛を切り揃えてくれる。

鋏を片手で捌きながら鎖を持つ手でメロンパンをゆっくり押し込んでゆく。

食べた気がしない。



「タマ!」

氷室様は僕の鎖を強く揺すりながら呼ぶ。

「はい!」

反射的に返事をするようになってしまった。

「主人の手から差し出されたもの以外は口にするな」

「はい!」

なんだって……じゃあ売店にあるメープルプリンも氷室様に言わなければ食べれないのか……!

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