《MUMEI》

椎名くんの家に帰り着いたときには、辺りは完全に暗くなっていた。



「…た、ただいま…」



おそるおそる扉を開けると、



「おう!!みつる、遅かったな!!」



…清水さんが、笑顔で出迎えてくれた。



「あんた、配達もしないでどこ行ってたの!?…夕食、清水さんが作ってくれたんだよ!?」



奥から、椎名ママが顔を出した。



「ご、ごめんなさい!…ちょっと、用事が―…」



私が頭を下げると、



「…あら、それなに??」



椎名ママが、私の手にある箱を指差して言った。



「…あ、これは、マ…蓬田さんのお母さんが焼いたケーキで―…」



私が答えると、



「ケーキ!!…早く上がんなさい、今丁度甘いものが欲しかったのよ〜♪」



と、椎名ママは急にご機嫌になった。



「清水さんも、ね!!」



椎名ママが、帰ろうとしていた清水さんを座らせる。



「…いや、でも…」


「いいの、みつるはどうせ食べないんだから…ね??」


「え!?」



思わず声を上げてしまった。


―…そっか…!!


椎名くん、甘いものダメなんだった…



…ショック…



「…あいつに、似たんだな…」



清水さんがぽつりと零したその一言に、



椎名ママの笑顔が、一瞬曇った、気がした。



でも、その表情はすぐに笑顔に戻ったから、


私の思い過ごしだったかもしれない。

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