《MUMEI》
『…本気にするよ?』
『本気にしてくれなきゃ困る…』
エンジンの音、
いつの間にか降りだした少しの雨の音。
『俺は惇のモノだ……、
不安になるな…、
裕斗は俺にとって惇のダチでしかない、それ以上にも…
以下にもならない』
自分自身にも言い聞かせる様、俺は言葉を繋ぐ。
―――もう…後戻りは出来ない…。
…なんだか不安で怖くて堪らない。
『お願い、俺だけ見て…俺だけ…、』
▽
それから暫くして惇のマンションの近くのコインパーキングまで着いた。
いつの間にか雨はやんだが空はどんよりとしている。
数日分の着替えとPCを取りに惇のマンションに来たのだ。
▽
『待ってる?』
『いや、一緒に行くつもりでここ停めたんだし…、つか少しでも離れたくないだろ?』
『――うん』
俺はエンジンを切り、煙草をポケットに突っ込んで車から出た。
そして惇も後に続く。
俺達は誰も通らない事を良いことに、自然と指先を絡め合い歩きだした。
『胸苦しくないか?』
『うん平気…、ね、隆志』
『ん』
『――隆志のマンションに行ったら…、俺…めっちゃ抱かれたい』
『ハハッ…うん…、俺も抱きたい』
『いっぱいキスもしたい』
『随分積極的だな〜、そんな可愛い事言ってると今直ぐ食べちゃうぞ?』
『――食べてよ』
ふとお互いに立ち止まる。
二人で軽く周囲を見渡し、誰もいない事を確認して……。
同時に同じ仕草をしたのがなんだかおかしくて、少し笑ってしまうと惇もクスクス笑いだした。
『笑うな、キス出来ない』
『隆志だって笑ってるよ!』
構わずぐいと背中と腰を抱き寄せると惇は顔を上げ、緩く瞼を閉じた。
俺達は、俺が惇の気持ちを受けいれたこの外灯の下で、
唇を重ね合いだした。
そして重ねるだけのキスから更に深く進もうとしたその時
『惇、仕事終わったのか?』
ゆっくりとその声がする方を見ると…
『あに…き……』
惇がそう言った。
雨がまた降ってきた。
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