《MUMEI》

「そんな事でいいんですか?」


理美さんの表情がパッと明るくなった。


幸子さんや他の皆は首を傾げたが、私と咲子さんはその理由を知っていた。


『クローバー』に来た時、理美さんはいつも、車の話をしていたから。


「私、運転大好きだから、大丈夫です!
今乗ってる車もマニュアルだし、原付は昔乗ってました。
よく出張ネイルをしに、お客様の家にも行くから、道を覚えるのも得意です!」

ニコッと笑う理美さんを見て、幸子さんも笑顔になった。


「助かるわ。出前は忙しい曜日と時期が決まってるから、その時だけでもいいから、お願いしますね。
後は、爪のお仕事、続けてちょうだい。
『せっかく技術があるのにうちだけにしたらもったいない』って、修さんとも話してたの」


「そう…なんですか?」


理美さんは驚いて、『いかにも職人』な悟さんと勇さんの父親の、修さんを見つめた。


修さんは、無言で頷いた。

「良かったな、兄貴」


勇さんの言葉に、悟さんは無言で頷いた。


(似たもの親子だな…)


私は二人を見つめてそう思った。


「蝶子さん、ありがとうございました!全部蝶子さんのおかげです!」


「いえ、そんな」

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