《MUMEI》

「おやすみなさい」


私の言葉に、咲子さんは『あ、そうそう』と思い出したように付け加えた。


「今日は衛いないけど、私達は今でも夜も仲良しよ。双子や蝶子ちゃんがいてもね。

…小さめの声や音なら大丈夫だから」


「さ、咲子さん!」


私が真っ赤になると、咲子さんは『じゃあ、おやすみ』と言って、先に上がっていった。


「ホ、ホールの掃除だけして、私も寝るから、俊彦は帰ってね」


「咲子さんがあそこまで気を利かせてくれたのに…
本当に…ダメ、なの?」


「モップがけだけしようっと」


私は俊彦を無視してモップを取りに行こうとした。


「ねぇ、蝶子」


俊彦が、私を引っ張って抱きよせた。


「だ、ダメよ。こんな所で…」


「じゃあ、蝶子の部屋で待ってる」


「え、あ、ちょっと!」


俊彦は、私から離れると、スタスタと歩き始めた。


(『部屋で』って…俊彦、来たことあったっけ?)


そして、私は思い出した。

今年の五月五日。


雅彦の誕生日に、俊彦がメイド姿の私を襲おうと…
私の部屋に忍び込んで、監禁された事を。


(どうしよう、行っちゃった…)


私は呆然としていた。

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