《MUMEI》
▽
「急に仕事なくなったんですよ」
そう言いながら俺はグラスに麦茶を注ぐ。
「芸能界って大変だなあ、そーやって簡単に振り回されるんだー?」
惇の兄貴…拓海さんは昨日惇が作ったエビピラフにパクついている。
――つか…
話と違う。
…今のとこ普通な人。
つか、キスしてるとこ見られたのに何でもない態度とられてるし…。
「どうぞ」
「有り難う、悪いね」
拓海さんは笑顔でグラスを受け取ると、麦茶をごくごく美味しそうに飲んだ。
本当、顔マジ惇そっくりだ。
ちょっと派手さのない、素朴な惇って感じ…?
ガチャ…
「先ゴメン、次兄貴入る?」
髪をバスタオルで拭きながら惇が脱衣所から出てきた。
「いや、潮崎さん先だろ、雨に濡れたし…、どうぞ先に入ってきて?」
また優しく微笑まれて…なんだか拍子抜けする。
「じゃあお先に…すみません」
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