《MUMEI》

土の上を這うその様はまるで蚯蚓の様で
その不愉快さに、李桂は指を踏んで潰していく
「……酷い事をするのね。指斬りは、戒めなのに」
「たかが指切りだろうが。阿呆くせぇ」
「……それがどれ程の意味を持つのか、あなたはまだ知らないだけ。さぁ、指を」
差し出された手
小指を取られそうになり、だが瞬間に名何かを察したのか
ソレを、拒んで避けていた
「怖いのかしら?そうね、指切りは戒めだもの。けれど人がその戒めを求めている事も事実。あなたにも直ぐに分かるわ」
行って終りに相手は林の奥へと歩く事を始めて擦れ違い際、李桂は親指に痛みを感じる
以前に少女に斬りつけられ未だ癒えてはいない傷跡
ソコをまた斬りつけられ
血が、大量に流れ出していた
「あのガキといいテメェといい。お前らは余程俺の親指がお望みらしいな」
「……親指は始まりの指。それが無ければ何も始まらない」
向けられる言の葉はやはり理解に苦しむもので
李桂は流れる血液を手荒く衣服の裾で拭うと、深々と溜息をつく
「俺はつくづく馬鹿なんだろうな。テメェらが何を言ってんのかがサッパリ解らん」
「解らないの?それは何故?」
解らない事が意外だと言わんばかりの顔
何の進展の無いそのやり取りに疲れ、李桂は再度深い溜息だ
「テメェはテメェで俺の言葉を理解してねぇみてぇだな」
これ以上何を何を話しても無駄だ、と
強制的に話を打ち切ると李桂は踵を返し、帰路へと着いていた
結局、怪奇の元凶はつかめず仕舞いだったが
手掛りになる様なモノがない以上長居は無用だった
「……あなたはどうして何も知ろうとはしないの?この子達が何故此処に在るのか、何故知ろうとしないの?」
立ち去る李桂の背へと向けられる女性の声
僅かに顔だけを振り向かせ
「俺には関係ないからだ。それに、その指がソコに在るのはあのガキが斬って集めてやがるからだろうが」
そう言い放てば、女性の表情に陰りが見える
俯いてしまい、身体を小刻みに震わせ始めた
「これは、(あの子)の必死の叫び。何故気付いてやれないの……?」
「は?」
「指斬り様に慈悲はない。あの子はずっと恐れているのに」
涙すら流し始め、懸命に訴えてくる
だが同情などしてやる義理は李桂にはなく、泣き崩れ地べたへと座り込む相手へ一瞥をくれてやり、そしてその場をあとにしていた
薄暗い竹林を一人歩いて
事を整理しようと考える事を始める
指斬り様とは一体何なのか
あの少女と女性は何をしようとしているのか
そして指塚に供えられていた指が意味するもの
元より考える事があまり得意では無い為、いくら頭を捻ってみた所で仮説すら立てられず
それならば潔く考える事を止めてしまおうと思考を遮断し、李桂はとある場所へと脚を向けていた
自身が頭脳労働が苦手ならば、それを得意とする人物に押しつけてしまおうと、到着した先の家の戸を叩く
すぐに戸が開き、一人の男が現れた
「雪月、ちょっとばかしテメェの脳ミソ貸せ」
現れた相手へ、何一つ語る事をせず矢継ぎ早に伝え
当然理解など得られる筈もなく相手は困惑気な顔
取り敢えず中へと促され、李桂は中へ
座敷へと通されると、相手・瑛 雪月の妻である雪乃が茶と茶請けの柿を持って現れた
「有難う、雪乃」
柿の皮を器用に剥いていく雪乃へ雪月が礼を言うと、彼女ははにかんだ様な笑みを浮かべる
各々皿に盛られた柿が目の前へと置かれ、雪乃は李桂へと会釈をするとその場を辞していく
「それで?李桂。何かあったんですか?あなたが俺の所に来るなんて余程暇な時か頭脳労働を強いる時でしょう?」
出された柿を食べながら、雪月の穏やかな声
その柔らかな声に促され、李桂は用件を話し始める
「雪月、テメェ(指斬り様)って聞いた事あるか?」
「指斬り様?それは一体……」
聞き返してくる所からしてどうやら聞き覚えは無いらしく
雪月が考え込んでしまった、その直後
部屋を立ち去り際の雪乃が脚を止めて
「ゆびきりげんまん、指を切る。一度指を切ったなら、二人で一人が当たり前。死ぬまで一緒がお約束」
徐に、歌を詠む
李桂・雪月両方の視線が雪乃へと向いた
「雪乃、今の詠は……?」
雪月が問うて返せば、雪乃は改めて雪月の傍らへと座りなおし
話す事を始めた

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