《MUMEI》

(じゃあ、どうして?)


私も含めたその場にいる全員が首を傾げた。


「…あ、最後の料理出来たみたいだよ」


有理さんはそう言って、料理を運ぶ克也さんの手伝いに向かった。


「逃げたな」


有理さんが逃げた理由は、もう少し後になって知ることになるが、この時は誰もわからなかった。


「蝶子さんは、東京の専門学校出たんですよね?」


しめの料理ー悟さん特製のサラダそばを食べながら、私は頷いた。


「私の高校からでも、行けますか?」


私はまた頷いた。


歌穂子さんの通う高校は、私の通っていた高校より学力が上だった。


「調理師になりたいの?」

私はそばを飲み込み、質問した。


「祐介に負けたくないんです」


(歌穂子さんらしいな)


テーマパークでも、歌穂子さんは年の差を気にせず、祐介さんと『対等』な態度をとっていた。


律子さんや理美さんと違い、学生という事もあるかもしれないが、歌穂子さんは、祐介さんの『手伝い』ではなく、祐介さんと『仕事』がしたいという気持ちが強いようだった。


「今からだと、推薦は難しいと思うけど…」


「受験します」


歌穂子さんはきっぱり言った。

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