《MUMEI》

タバコがいつもより美味い。
気分も最高だ。

自分の殻を破った走りが出来て、思わず叫びたい気分だ。

空に向かって煙を吐き出す。

その空にはNSRの音が木霊している。

(元気やなぁ…)

俺はもう限界だった。手は痺れて、集中力も切れていた。

地べたに座り込み、タイヤに触れると、ゴムが溶けてただれていた。

両サイドが特に酷く、明らかに溝が減っている。

(もうこんなにチビたのか?)

立ち上がり、キーを回し、メーターを切り替えた。

【OD:1236km】

「ウソ!もうこんなに走ったんかぁ?
オイル交換もせなあかんやん!」

ふと、パネルの時計に目をやると4時が近かった。

「さて、そろそろ帰るか…」

俺は峠に向かってバイクを走らせた。

途中、NSRとすれ違いざまに左手を上げ、峠を後にした。

(そういえば腹減ったなぁ…)

周りを見渡すが、田んぼだらけで店は見当たらない。

(前に泊まったホテルの前にコンビニがあったなぁ…)

と、思った時、田んぼに囲まれるように
『手打ちうどん』
の看板が見えた。

頭より先に体が自然と動き、うどん屋に入った。

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