《MUMEI》

「タマ……全然理解していないな?
いいか、楠でもう一度やるからよく見ておけよ、……………………ついでだからそのみっともない薬指も処理しとけ」

氷室様は楠先生に向かってもう一度蹴り上げ始める。

気付けば右薬指が発毛していた。多分、先生には気付かれなかっただろう。

「ンアギャー、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
なんまんだふたんまんだぶなんまんだぶ……」

先生の謝罪は確かに鬼気迫るものがある。

しかも息の仕方もおかしいぞ……
大丈夫なのか本当に。



「タマ、これが金色夜叉だ!」

微塵も後ろめたさが無い美声で解説された。

「はい!」

……本当か?!
先生白目剥いてますが。

そして先生の口から一筋の血が流れた。

「せっ先生!」

吐血した!

「タマ、安心しろ、ストレスを与えると人間が血を吐くという自然現象だ。」

氷室様は楠先生を足蹴にした。

……氷室様、ストレスが与えられた時点で自然ではありません……!
僕は白目を剥いて気絶した楠先生を眺めながら氷室様に心の中でツッコミを入れた。

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