《MUMEI》
十一月七日 土曜
今日も騒ぎますのでご免なさいと角南クンが言ってきた。
そこでわたいは皆が集まった頃、差し入れを持って行った。芋の煮っ転がしを大鍋に入れてね。みんな今は手作りのものをあまり食べられないようで、その喜びようったらありゃしない。
わたいはその時新しい子が居たのに気が付いた。
「・・・あら、あなた、初めて見るわ。こんな武者(むさ)い連中の中にめずらしいわ。紅一点ね」
その子は真っ赤になった。みんなにやにやしている。
「お姉さん(わたいはこう呼ばれないと返事をしない)、こいつ男だよ」
その子がもじもじして言った。
「・・・柳生林太郎と言います。まだ一年です」
「へえーっ!ご免!あんまり可愛いから女の子だと思った!髪も長いし」
林太郎クンは角南クンをちらと見た。何か妖艶な仕草だった。
「・・・昔から女の子に間違えられてました。でも結構すばしこくって喧嘩強いんですよ」
やっちゃんと愛称で呼ばれているHクンが言った。
「おば・・・いや、お姉さん!『りん』はこれでもサッカーの天才なんだ。今からJリーグの引き合いが来てるんだぜ!」
ふうん・・・『りん』なんて呼ばれているんだ!カワイイ!
「でも、みんな三年生でしょ。なんで一年生のりんクンがここにいるの」
みんな顔を見合わせた。
汗っかきのNクンが汗を拭き拭き、わたいの『敬称』を言いにくそうに言った。
「そうなんです。オネエサン。なんでりんが角南の友達になったのか分からないんですよね。(みんなに向かって)サッカー部のアイドルとエロ小説家志望なんてあわねえよな!」
林太郎クンが言い訳するように言う。
「・・・俺の家が途中の津久井にあるから・・・京浜電車で顔を合わせてるうちに・・・」
角南クンは目をきょろきょろさせて成り行きを見ていたが、
「・・・それにこいつは俺の小説の理解者なんです!」
Hクンが叫ぶ。
「うお!それはやばいぜ!お前のホモホモ歴史小説なんか読ませて、その道に目覚めちまったらどうするんじゃ!」
角南クンが真面目顔で言った。
「俺の小説は命を賭けた『契り』を扱ってるんだ!・・・その時は・・・責任取ってやるよ!」
一瞬シーンとした。次の瞬間、みんな大爆笑だ。
「いや、駄目だ!りん!こいつだけは止めとけ!俺がいいぞ!」
「いや俺だ!」
みんなが楽しそうに名乗りを上げた。
林太郎は嫌がらずに口から白い歯を見せながら笑って聞いていたが、こくんと頭を下げて、
「皆様、ご厚意は有り難いけど・・・ご免なさい!」
テレビでやっていた告白ゲームで、プロポーズを受けた女性の断り方だ。
芋の煮っ転がしをつつき、ビールや焼酎を飲みながら、彼らはわいわいと夢を語り合う。
エッチな話も飛び出すが嫌みがない。みんなより年下のりんクンも楽しそうだ。大切にされているみたい。
わたいは若い笑い声に後ろ髪を引かれながら母屋に退散した。
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