《MUMEI》
少女
 残された二人は、レッカが出て行ったドアを見つめ、そして部屋を見渡した。
誰も小部屋から出てくる気配はない。
この状態に慣れているのだろう。

「部屋に戻りましょう」

凜の言葉に頷き、羽田は体の向きを変えた。
そして歩き出そうとした時、足に何かがぶつかった。
下を見ると、まだ小さな子供が頭を押さえて立っていた。

「あ、ごめんね。大丈夫?」

羽田は慌ててその場にしゃがみ、子供の顔を覗き込んだ。
歳の頃は七、八歳ぐらいの女の子だ。
彼女は自分の頭をさすりながら、羽田を見返した。

「大丈夫?」

もう一度羽田が聞くと、少女はコクリと頷いた。

「お姉ちゃん一人なの?」

少女は首を傾げた。
同じように羽田は首を傾げ、すぐに気付いたように頷いた。

「あ、うん、そう。一緒に来てた子がいたんだけど、出かけちゃって」

「もしかして、その人マボロシと戦ってる人?」

「そう。……見習いらしいけどね」

「へー、かっこいいなー」

少女がそう言うと同時に、どこからか女の声が聞こえてきた。

「あ、ママだ」

少女はそう言うと羽田に微笑んだ。

「わたしのお部屋、この列の一番向こうだから。お姉ちゃん、一人でさみしくなったら来ていいよ」

「うん。ありがとう」

羽田が頷くのを確認して、少女は母親の元へ戻って行った。

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