《MUMEI》

「――な、潮崎一晩貸してくんない?」

「!!な……」




「散々お前の代わりに抱かれてんだからさ…、
たまにはイイだろ?
生で見たらあんまりイイ男なんでケツの奥がムズムズしてきたよ」




恐らく、首の傷を撫でている。


指先の感覚が酷く冷たく感じ、そこから恐怖が湧いてくる。





「駅前のビジネスホテル俺の名前でチェックインしてる…代わりにそっち泊まってくんない?
俺達そっくりだからフロントも気が付かないよ…」








――そう、俺達の顔はそっくりだ。





――いつからだろう…






俺が髪型を変えれば兄貴も変え、服装も気が付けば同じ様だった。






理由も分からず、でもそれほど気にはとめてはいなかった。





しかし首に一直線の傷をつけられた時、その理由は全て明かされた。




兄貴が俺になりたかった訳…、それは…






「なあ、また俺に殺されたいの?
――いつまでここにいる気?」




「―――っッ!!」





耳たぶに鈍痛が走る。






恐る恐るそこを指先で触れると、ぬるっとした。





「早く出てけ…ひとでなし…」








気がつけば俺はマンションを飛び出していた。

酷いめまいと恐怖心で直ぐに足がもつれアスファルトに手足が着く。




「はぁ…、はぁ…、隆志…隆志…」




ふと目につく指先は血に染まって…。






――ひとでなし…ひとでなし…





さっきの兄貴の言葉が耳に焼きついて離れない。






「仁…、もう開放して…はあ、ヤだ…、もうイヤだ…」






どうしても受けいれる気にはなれなかった兄…仁の存在。





例え血が繋がらなくても兄弟で…男同士で…受けいれられる筈もなかった。








「惇!大丈夫か!!」

「――ゆう…と?」


ボヤける視界に映る親友の…姿。






「大丈夫か?隆志は?おい!惇!!」





「ゆうとぉ〜!」




俺は力いっぱい裕斗に抱きついた。

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