《MUMEI》

「う〜ん、迷うな〜」


律子さんは、服装に一番合うワインレッドのロングブーツか、会社の忘新年会にも履いて行ける黒のロングブーツか悩んでいた。


「ゆっくり考えて決めて下さい。蝶子のブーツもこれから持って来ますから」


俊彦は、悩む律子さんに笑顔を向けて私にウインクし、席を立った。


私は今日は、俊彦の強い要望で、ミニスカートを履いていた。


(俊彦がひざまずいたら、下着、見えちゃうんじゃないかな…)


私はその事ばかり考えていた。


「お待たせ」


ドキッ


俊彦が靴を三足並べた。


それは、ほとんど同じデザインの黒いロングブーツだったのだが


ローヒールと、ハイヒール、それに、厚底の三種類だった。


私は、以前メイド服を着た時、厚底靴を初めて履いた。


(あれは、大変だったな)


私は、履く前に、俊彦に『厚底は無理』と訴えた。


俊彦は頷いて、厚底靴を避けた。


(ハイヒールって履いた事無いな…)


「前は殴られたけど、今度は挑戦してみる気になった?」


俊彦の言葉に、私の隣で座っていた律子さんが目を丸くした。


「去年の、春の事、でしょ。もういいじゃない…」

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