《MUMEI》

「そう言えば、瞳はどう?」


「あ、順調です」


病院で出産する薫子さんと違い、来週出産予定の瞳さんは、自宅出産の予定だった。


「そう、良かった」


薫子さんは、花のように微笑んだ。


そして、翌日。


十二月三日。


その日は去年より遅い初雪が降っていた。


「今頃、薫子頑張ってるかしらね」


「そうですね」


『クローバー』でランチの仕込みをしながら、私も咲子さんもどこか落ち着きが無かった。


それは、商店街の皆も同じだった。


何故なら、出産予定日前から薫子さんは難産になるだろうと、薫子さん自身が皆に伝えていたからだ。


『頑張ってくるからね』


病院に入院する日、薫子さんは心配して見送りにきた商店街の皆にそう言っていた。


(頑張れ)


私も、咲子さんも、商店街の皆が、薫子さんと産まれてくる赤ちゃんの無事を祈った。


安産だった結子さんは、一時間足らずで連絡がきた。

『クローバー』の営業を開始し、ランチタイムが終わり、ティータイムが過ぎても、…付き添っている克也さんから連絡が来なかった。


夜の営業を開始すると、心配している皆が自然と『クローバー』に集まってきた

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