《MUMEI》

『クローバー』の隣が『酒の猪熊』だったから、克也さんが一旦戻ってくれば、車の音ですぐにわかるというのが、その理由だった。

だから、皆何となく窓から外を見つめていた。


「積もってきたわね」


咲子さんがポツリと呟いた。


時刻は、午後八時。


もし、薫子さんの出産が予定通り午前中からなら、予想以上に難産だという事だった。


その時。


「来たァ〜!!」


全員の携帯が鳴ったり震えたりした。


克也さんからの一斉メールだ。


考えてみたら、誰かの携帯を確認しても良かったのに、全員が、自分の携帯をバックやポケットから慌てて取り出した。


私もタオルで手を拭いて、厨房の隅にある自分の携帯を開き、メールをチェックした。


タイトルは『無題』になっていた。


緊張しながらメールを開く。





『うまれた かおるこもぶじ おんなのこ』


文章から、克也さんが慌てていたのがわかった。


ホールからは歓声が上がっていた。


「「な〜に〜?」」


騒ぎを聞いた双子と衛さんが、パジャマ姿で降りてきた。


「産まれたって!薫子の赤ちゃん!」


咲子さんが興奮しながら伝えた。

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