《MUMEI》

双子が歓声を上げ、衛さんもホッとしたように微笑んだ。


「咲子さん、乾杯しよう!」


いつもは春樹さんが言うセリフだが、春樹さんと瞳さんは今日はいないから、俊彦が提案した。


「そうねぇ…」


その時。


「こんばんは、『酒の猪熊』です!」


勢いよく入ってきたのは、克也さんの兄の龍也さんだった。


龍也さんはサラリーマンだが、最近薫子さんの見舞いに行く克也さんのかわりに、店の手伝いをしていた。

少しよろけながら、龍也さんは、シャンパンの入ったケースを置いた。


「「これ…?」」


「薫子ちゃんの子供が無事に産まれたお祝いです!
もちろん、サービスで」


私と咲子さんの質問に、龍也さんは笑顔で答えた。


「さすが、気が利くね!」

「あと、明日は『花月堂』の紅白饅頭配られるから!」


龍也さんの言葉に皆が歓声を上げた。


(皆、信じてたんだ)


シャンパンも紅白饅頭も簡単に用意できる物では無かった。


それだけ、皆が、薫子さんの出産が無事に終わる事を祈り、信じていたと思うと、私は嬉しくなって思わず涙ぐんでいた。


「可愛いなぁ、蝶子は」


俊彦は、そんな私の涙をそっと拭った

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