《MUMEI》 何度も独特の呼吸を繰り返しながら、瞳さんは力んだ。 汗と一緒に涙も出てきて、私はそれらをこまめに拭きながら、『頑張って』と繰り返した。 「もう少しだよ!もう、頭が見えてるから」 「お母さんになるんだから、頑張りなさい、瞳!」 助産婦さんの声に、瞳さんの母親が叫んだ。 「瞳!」 夏樹さんも瞳さんの名前を叫び、励ます。 「瞳さん!もう少しだけ、頑張って下さい!」 私の言葉に、瞳さんは深く頷いた。 瞳さんは、悲鳴に近い唸り声を上げながら、より一層力を入れた。 私の手を、痛いほど強く握りしめて。 そして。 元気な泣き声が部屋中に響き渡った。 「元気な男の子ですよ、お母さん」 瞳さんに、産まれたばかりの小さな命が手渡された。 瞳さんは、何も言わずに 何も、言えずにそっと、その子を抱き締めた。 数分後。 部屋の片付けが終わってから、春樹さんが入ってきた。 「瞳…」 「春樹…」 (私、お邪魔、よね?) 私はその場をそっと離れようとして… 「「待って!」」 二人に呼び止められた。 (え?) 私は振り返った。 前へ |次へ |
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