《MUMEI》

「お前には左サイドをやってもらう。」


「日高さんと交代ですか?」


「いや、関谷とだ。」


「?」


「日高には右サイドをやってもらう。」


「はぁ…?」


「右サイド側でのフェイクはお前にはできないからな。」


(もっと言うと、プロンジョンができないお前じゃシュートも無理だけど。)


「お前はパスもらったら、相手の足に注目しろ。」


「足ですか?」


「そうだ。相手のディフェンスは…」


クロが千秋に作戦を伝えている時だった。


「ピー!!」


審判の笛が鳴る。


「何した?」


試合を見ていなかったクロ。


状況を恭介に聞く。


「関谷のディフェンスファールだ。…シュートモーション中の。」


「…7メートルかい。」


4対6のこの状況での7メートルは痛い…


なんとしても止めたいところだが…


「俺に任せろ。」


「…恭介?」


「クロ時間稼いで。」


「?、…」


(ここぞって時の作戦だったんだけどな…)


「椎名!!」


「え?」


ベンチからサインを送る。


「あ!!…すいません。」


椎名が審判に話かける。


「靴ヒモが…」


「あぁ、はいはい。」


「ピピピ!!」


時計を止めさせる。


靴ヒモがほどけたからと言って、時計を止めてくれるかどうかは審判しだいだ。


しかし、7メートルの時には必然的に時計が止まる。


そのタイミングで


『靴ヒモが…』


これで大抵の審判は時間をくれる。


「クロらしい作戦だな。」


「うるさいよ!!村木!!」


村木を呼び寄せる。


走って近寄る村木。


「恭介、急げよ。」


「わかってる。お前も早く千秋に伝えろ。」

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