《MUMEI》

(良かった)


珍しく俊彦があっさり言う事を聞いたから、私はホッとした。


私達は、いつものように一緒にお風呂に入る。


「蝶子」


「…何?」


「足、洗わせて」


「背中じゃなくて?」


俊彦が頷く。


(前見られるのは、ヤだなあ…)


私は、タオルで前を隠して、『いいよ』と言った。


「衣裳は任せるけど、靴は駄目だからね」


俊彦は、自分の手に石鹸をつけた。


(それ、くすぐったいんだよな)


「蝶子の靴は、俺が全部選ぶから」


「っ…」


わかっていても、やっぱりくすぐったかった。


「この足は、誰にも触らせないから」


足の指や裏を洗い終えた俊彦は、一度泡を落とす。


「ちょ…っ…」


俊彦が、私の足首を掴みながら、足の甲に唇を押し当ててきた。


「動いてもいいよ。眺めよくなるだけだし」


「…っ…ここじゃ、ヤだよ」


「うん。わかってる。足だけだから」


(長いんだもん)


俊彦は、本当に足しか洗わず、他には触れなかったが、私はもう一回したような気持ちになってしまっていた。


そして、それからのベッドの一回も当然のように長かった。

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