《MUMEI》

◆◇◆

「‥‥‥‥?」

 自分の名を呼ぶ声がする。

 狐叉は微かに、ぴくりと耳を動かした。

「どうした、夜桜」

「すまん‥眠っていたか」

 不安げに自分を見つめる姫君に、七尾は苦笑した。

「いや、ずっと起きていた」

 その答えに安堵し、夜桜は話を続ける。

「前に‥貴船に行った時の事を覚えているか」

「ああ」

 狐叉は懐かしげな眼差しをする。

「あの頃‥‥私はまだ五歳になるかならないか位の年で‥眠れないと夜な夜なよくお前の背に乗せてもらって色々な場所を回ったものだな」

 すると狐叉は再び苦笑した。

「そういえば‥彩貴に詰(なじ)られては、よく邸を飛び出していたな」

 ああ、と苦笑混じりに答え、夜桜は天井を見つめる。

◆◇◆

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