《MUMEI》
変化 〈おれ〉
今朝も弁当を作って家を出た。


駅にはまだ蓬田は来てなかった。


大きなあくびが出る。



―…実は夕べ、あんま寝れなかったんだ。



こんなの初めてのことだった。



身体にも、なんらかの変化が起きてるのかもしれない。



と、向こうから『おれ』がやってくるのが見えた。



「おう、」



片手を上げて挨拶すると、



「おはよ」



そう返して蓬田がおれの隣に立った。



途端、おれの心臓が早鐘を打つ。



何だコレ!?



…やっぱ、異変が起きてんだ。



心臓の鼓動を誤魔化すように、言葉を発する。



「…ケーキ、食ったか??」


「んーん。…食べられなかった」



蓬田は、いたずらっぽく笑って答える。



「え、なんで??」



驚いて訊ねると



「…ほら、椎名くんって甘いもの苦手じゃない。―…だから」



蓬田の言葉に、納得する。



「あ、そっか!!―…なんてゆーか…悪かったな」



おれが言うと、



「いいよ、戻ったらいくらでも食べられるし!
…それより、清水さん、来てくれたよ」



と、蓬田が微笑んだ。



「え、マジ!?…なんて言ってた??」


「晩ごはん、スタミナ丼、作ってくれたよ。
…心配してた、椎名くんのこと。」


「…そっか、」



そっか。
師匠、心配してくれてたんだ…



「練習、行くって言ったから」



蓬田が、はっきりとした声で言う。



「―…そっか!」


「うん!」



お互いに笑いあったとき丁度、
電車がホームに入ってきた。

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