《MUMEI》

 







   バシャ


「冷たっ…………!」

隙を付いて離れる。
どうやら水が降ってきたらしい。

   バコッ

更にペットボトルが降ってきたのが命中し、扉から飛び出す。

「…………乙矢……」

開けた瞬間に受け止めてくれた。

下は丸出しで足に沢山衣類がずり落ちて上手く歩けない変質者状態だった。

「……早く履け馬鹿。」

助けてくれたのは彼のようだ。盾になって俺を隠してくれた。

「浮気はいけないな、仁科君……。」

「あんたが誘ったんじゃないか?
ついてったのはこの馬鹿かもしれないけど、自分から誘う馬鹿じゃない。」

やば、乙矢、
お前、今めっちゃ恰好良いの気付いてるか……?

「仁科君のこと知ってるかい?
酷く可哀相なんだ、君には勤まらないよ。
ほら、おいで僕なら支えられる。」

伸ばされた手は、俺を見透かしている。

昔の彼なら、俺は動いたかもしれない。
今は、乙矢の掌が柔らかいから無理だ。

「あんたこそ、どっか行け。是清はあんたより俺の方を好きなんだよ!」

全く、こっちの見透かし方は堪らないな。

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