《MUMEI》

「間違いじゃないよね?」

中身を見ても、まだ、俊彦は疑っていた。


「よく見て」


私は、立ち上がり、机に移動した。


俊彦も、立ち上がり、私の手元を見つめる。


私は、バックからメモ用紙を取り出した。


「いくよ」


「…うん」


私は『それ』に朱肉を付け、メモ用紙にグッと押し付けた。


ゆっくりと、『それ』を紙からはなすと


そこには確かに


『村居』


の文字が浮かび上がっていた。


「これ、蝶子に、なんだよね」


私は頷いた。


「これからは、必要でしょ?」


これから。


私が俊彦と結婚すれば、名字は『伊東』から『村居』になる。


父と華江さんが私に『村居』の印鑑をプレゼントしたという事は…


「認めてくれたって…事?」


私は、無言で頷いた。


「でも、まだ期限になってないじゃん」


「…嬉しくないの?」


私はてっきり俊彦も喜ぶと思っていたから、少し寂しくなった。


「いや! あんまり急で、びっくりしただけで!

本当に、俺達、いいんだよね?

今更嘘とか言わないよね!?」


「言わないよ」


「本当に、本当だよね!」

「だってこれ高いよ?」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫