《MUMEI》

私は先日メモ用紙を買った時に、文房具屋で同じ種類の印鑑を見かけていた。


それはガラスケースに入っていて、見本として飾られていた。


店員の話だと、注文を受けてから名前を彫るらしい。

「だから、悪戯じゃないわよ。
多分ね、俊彦、夏には認められてたのよ」


亡くなった母の墓参りを済ませた事と、光二おじさんから私を助けた事で、父はおそらく私達を認めていたのだろう。


(じゃないと、クリスマスに間に合わないし)


「え〜、蝶子争奪戦したのに?」


「それは、条件反射みたいなもので…

華江さんも、父さんは俊彦と顔を合わせると冷静になれないって言ってたし…」

多分、以前父が言っていた『複雑な父親の気持ち』がそうさせるのだと、私は思った。


「本当の、本当に、だよね?」


「実家に来た時に、改めて訊く?」


「それじゃ遅い!」


「? 何で?」


(何が遅いの?)


「だってそれによって今日のやり方違うから!

いいなら、今日から子供作る!」


「は? 何言ってるの!?」

俊彦の言葉に私は耳を疑った。


「だって〜、皆子持ちになってるし、俺も、そろそろいいかなって…」

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