《MUMEI》

「ち、違うの、これ、間違い!」


(愛理さん、これ、違う)


私のバスローブは、俊彦よりも遥かに丈が短かった。

「それじゃなきゃ、俺、着ないよ」


(う…)


「これ着たら、今日は余計に燃えるかもしれないけど。

早速試着しようかな」


俊彦が、ガバッと服を脱ぎ始めた。


(ま、まずい…)


次は絶対、『蝶子も、早く』と言われる。


拒んだら、絶対脱がされる。


バスローブ姿になって、ベッドに二人…


そのまま、お風呂なんて、絶対行かない。


私の頭に『子作り』の文字が重くのしかかってきた。

「蝶子も、早…」


『く』と俊彦が言おうとした瞬間、私の携帯が震えた。


ピッ


《蝶子ちゃん!》


「と、父さん? どうしたの?」


絶妙なタイミングで電話をかけてきたのは父だった。

《ごめん、寝てた?》


「ううん、今から寝るとこ」


《どうしても、言っておきたい事があって…》


「な、何?」


(『やっぱり認めない』とかじゃないよね…)


緊張する私の隣で、いつの間にかバスローブを着ている俊彦は正座していた。


《あの、さ…》


私達は、同時に息をのんだ。

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