《MUMEI》
入水自殺
〇月×日
赤ちゃんがだめだったこと伝えてから祐希さん変わってしまった。悲しかったのかなぁ。でも、機嫌悪くても喧嘩しても必ず抱いてくれる。今は、喧嘩したあとでしか私を抱かなくなった。喧嘩はいやです。今お腹では赤ちゃんが動いている。この子は産んでみせる。だから、彼を怒らせないように良き妻でいなければならない。
 後にこの赤ちゃんが私益美になるのだ。
生まれると毎日の風呂は父の役目みたいだ、それだけはなにがなんでもやっていたようだ。昔の男だから頑固で気難しいがルックスだけは娘の私が言うのもなんだけど、ピカイチである。そんな父が風呂だけは入れてた事は聞いていたから知ってた。
そして、二人目三人目と六年かけて産み落として行った母。その六年の間に、父は浮気三昧で生活費も入れなくなって行ったようだ。〇月×日
娘三人すくすく育っている。私は幸せだ。祐希さん、今日は帰ってくるかしら。給料日だから、少しは頂かないと。
風呂も入れなくなってる様子。なぜなら帰宅しないからだ。何か言うと殴られるのでつつましくしている母がそこにはいた。父の帰宅と生活費だけを望んでいる母がいた。  
〇月×日
親類にお金を借りてしまった。子供に食べさせるものが無い。祐希さんには内緒で借りてしまった。ごめんなさい。
もう、どうにもならない母がいる。父はとうとう、帰ってこなくなる。何が理由で夫婦がだめになったかなんて、今となってはわからない。日記には父の浮気しか書いてないから。その後、二人は離婚した。三人の娘も成長したので仕事しながら生きようと決意をしたのだった。意を決したのは、私と美香、香美のおかげと記してあった。
〇月×日
祐希さんに離婚を言い渡された。好きな人と一緒になりたいと言うのだ。私は三人を連れて、昔、手も握らなかった祐希さんとのデートでの思い出の場所である、海に出かけた。二度と帰らないと決めて。
少しは肌寒く、夏の終わりを感じてた。水着の益美と美香は手をつながせて、私の右手、左は香美を抱いて、誰もいない夜の海へ入っていった。入る前は三人で水遊びをしていた、楽しそうに。さぁ行きましょうという私の一言で何もわからない三人がついてきた。 海の底へ逝くのよ。心でつぶやき、私は深い深い海へ波にもつれながら進んでいきました。灯台からの光が三人の娘に当たった。私は泣き崩れ、私を心配そうにしてくれる娘と岸にもどりました。あのこたち笑ってた、これから死のうという母に引かれてるのに、コロコロと笑ってた。私はその笑顔が好きなんだわ、と思い、死ぬことはしないと決意しました。ありがとね益美、美香、香美。
自殺しようとした日の日記にはそう書いてあった。そういえば記憶にある、ちいさいころ一度だけ行った夜の海。記憶は水が黒くて怖かったことと、三人で脅かしあって水辺でふざけた事だけだ。でも、あの日、私たちは死んでいたかもしれなかった。

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