《MUMEI》

会計は乙矢に任せて、トイレで不快感を廃除してきた。
詰める時に必要なエコバックと共に間に合う。

「……もういいのか?」

労ってくれる。

「いいですよ。」

乙矢は、一見冷ややかなイメージだが、本当は思いやりに溢れた恰好良い姑だ。

すらりと長い手足と纖かな指先が何かの舞踊みたいに動く。
その繊細な動きにそぐわぬ温かい掌だということを何人知っているのだろう。

「手、止まってる。」

「はいはい。」

口煩い姑でもある。
車を走らせる時、無性にキスをしたかったのは秘密だ。

「徳和は高校の同級生だった。俺はデザインの専門学校、向こうは美術短大、もう会わないって思っていたんだ―――――――――――――――――――――」



偶然の再会だ。
職場が同じだった。
俺達の他は一人しか新入社員はいなかった。

高校時代と全く変わらない彼に親近感が湧いた。

俺の、初恋だった。


酒乱の俺が安心して酔えるのは徳和あってのことだ。

俺は徳和に初恋をしていた頃の俺を見ていたのかもしれない。

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