《MUMEI》
校長先生
学校はある話題で持ちきりだった。

それはもちろん……。

「ちょっと見た――!?春日くんって双子だったんだって!」

「知ってる、知ってる!私、気ィ失いそうになったもん!」

「し、しかもひとりは病気で歩けないだなんて……」

「その歩けない弟の代わりに春日有希やってあげるなんて、優しいお兄さんだよね―…」

「それにしてもあんなに美しい顔をふたつ同時に見られるなんて、贅沢よね……」

「……あっ谷口くん!おはよう!」

「おはよう。若井さん、村田さん」

「……私達はもっと贅沢よねぇ……」

「今日も美しいわ…」

オレにはまだやるべきことが残っている。

日本中には公表したけど、この光岳高校には報告してないことがある。

「2年の谷口流理です。校長先生はいらっしゃいますか?」

「おはよう、谷口くん。入りなさい」

「失礼します」

校長先生はかなり大きめのお腹が机との間にあり、すごく邪魔そうにしている。

「それでご用件は何かな?」

「あの、先生は春日有希って知ってますか?」

「……ああ最近双子だって公表した子だね?」

「あれ、オレなんです。オレとオレの弟です」

校長先生はすぐには理解できなかったらしく、しばらくぼ―っとしていた。

「本当です!最近欠席が多かったのも、映画の撮影が忙しくて……」

「し、しかし親御さんもおられないのに芸能活動などできるのかね」

「仕事、です。弟は高校に行かずに芸能界という会社に就職したようなものなんです」

先生は椅子に深く腰掛けた。

「それで?谷口くんはどうして欲しくて私の所まで来たのかな?」

「どうして欲しくて…って言うか、こういう場合オレは退学になるのですか?」

「……君はどうしたい?」

「元々、弟が高校に行かなかったのはオレを高校に行かせるためなんです。自分が高校に行きたいという願望を捨ててまで、オレをこの光岳高校に行かせてくれました。オレは、卒業まで通いたいです。でも、今は動けない弟を食べさせてやらなければなりません。リハビリもあるし、定期的な検査だって……。両方続けたいというのは欲張りでしょうか?虫が良すぎですか?」

先生の表情からは何も読みとれなかった。

「これは教育委員会に報告しなければならない。私ひとりだけでは決められない。だから…谷口くん、それまで待っていてくれるかな?」

「……はい」

校長室を出たあと、頭を冷やすために屋上へ向かった。

――なんであんなに熱くなっちゃったのかな。

とにかく、校長先生を信じて待つしかない。

『私は君の味方だよ。誰よりも頑張っている学生を応援しない訳にはいかない。君達は頼れる大人がいない中で、長い間頑張って来たんだろう?今度は私が頑張ろう』

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