《MUMEI》

いつもの感じで午前中の授業を済ませると、
おれたちは時間をずらして保健室へと向かった。



「あら、いらっしゃい」



香織センセーの笑顔がおれたちを迎えてくれた。



けど、



「じゃあ…大事なお客さんだから、キミ帰ってくれる??」



香織センセーは、カーテンを開けると、
ベッドに座っていた男子生徒を立たせた。



「え??」



その男子生徒は困惑した顔をする。
診察中だったのか、シャツの胸元が開いていた。



「や、診察中だったら後で―…」



おれが慌てて言うと、



「いいのよ、この子はすこぶる元気だから。…それに―…」



香織センセーはそう言いながら、おれに歩み寄り、耳元でこう囁いた。



「…椎名くんの方がかわいいし、ね」



??何のことかわかんねえけど、耳がくすぐったくて鳥肌が立った。


男子生徒は渋々という感じで立ち上がり、保健室を出て行った。
遠くから見ると気付かなかったけど、なかなかのイケメンだった。と思う。



ふと横の蓬田を見ると、顔を真っ赤にして俯いていた。



「…どーした??熱あんのか?」



おれが聞くと、



「…違うの、」



と、かぶりを振った後、センセーを睨みつけて、



「…こーいうのは、他所でやるか、でなかったら鍵くらい閉めて!!」



と言った。



「はいはい、ごめんね〜??…結構可愛かったから、ついね〜」



―…だから、何の話だ!?診察他所でやれって、鍵って??



「…睨む椎名くんも、男っぽくてイイわね〜♪」



からかうように言う香織センセーから視線を外してため息をつくと、蓬田は、



「…ごめんね、なんにも気にすることないから!!」



と、おれに言った。


結構すごい剣幕だったから、一応頷いた。


…まず、何のことなのかも分かんねえんだけどな。

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