《MUMEI》

「仕方ないわね」


咲子さんは引越しの許可ではなく、私に外泊許可を出した。


その間、『シューズクラブ』は大掃除があるだけで、『クローバー』は昼間のみ通常営業を行っていた。


私と俊彦は、事実上、新婚生活を送っていた。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


朝、私は俊彦に見送られて、『クローバー』に出勤する。


新婚にありがちな、出勤前のキスは、私が拒んだ。


(だって、おはようのキスとか、…いただきますのキスとか、美味しいよのキスとか…)


とにかく俊彦は、朝から隙を見つけては、私の唇を奪う。


(しかも、長いし…)


私は毎朝咲子さんに言われた時間ギリギリに『クローバー』に到着する。


「おはようございます」


「おはよう」


そして、私と咲子さんは仕込みを始める。


今は『シューズクラブ』へのケーキを作らなくていいから、量は少なく、空いた時間で新作ケーキを試作・試食したり、いつもより丁寧に店内を清掃する。


そして、コーヒーを一杯飲んで、軽く休憩したところで、『クローバー』は営業を開始する。


後は、いつものパターンだった。


「お疲れさまでした」

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