《MUMEI》

「じゃあ、俺も帰るね」


「あ、うん」

「またな」


雅彦が帰り、私と俊彦の二人だけが残った。


「蝶子」


「何?」


「蝶子」


「だから、何?」


「…呼んでみただけ」


「何それ」


私は苦笑した。


「だって呼べば答える位置に蝶子がいるなんて、嬉しすぎて、確認したくなる」

「…」


真顔で言う俊彦に、私は絶句して、更に赤くなった。

「すぐに触れる距離にいるから、嬉しくて、確認したくなる」


…うっかり流されそうになった。


「ここ、店内で今は昼間!」


「え〜」


「『え〜』じゃない!買い物行ってくるから!」


私は何とか俊彦の腕の中から脱出した。


「待って、俺も行く」


俊彦が腕を掴んできた。


「い、いいよ。そんなに買うもの無いし…」


(恥ずかしいし…)


二人で買い物に行ったら、絶対冷やかされると思った。


「いいじゃん、邪魔しないからさあ」


(そういう問題じゃなくて…)


子供のように甘えてくる俊彦に、どう説明したらいいか私は悩んでいた。


「もしかして、恥ずかしいの?」


俊彦に質問されて、私は無言で頷いた。


「大丈夫!」

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