《MUMEI》

「わ!」


俊彦が私を勢いよく引っ張った。


そして、店内から外へ私を連れ出した。


事務所で一度靴を脱いだ私だが、店内に入る時に、再びスニーカーを履いてはいた。


「蝶子はいつでも可愛いよ」


「…そういう問題じゃないし、財布、…」


私の財布は事務所のバックの中だった。


「大丈夫!」


大掃除だからと、珍しくジーンズを履いていた俊彦は、ポケットから財布を取り出した。


「風邪引くよ」


「平…ハクション!」


「上着取ってきたら?」


十二月の終わりに、トレーナー一枚で外に出たら、クシャミも出るだろうと思った。


「じゃあ、一緒に行っていいんだね!」


(しまった…)


思った時には遅く、俊彦は私に『待っててね』と言ってすぐに店内に戻った。


それから、コートを着てきた俊彦は、戸締まりをして、私と手を繋いだ。


「手…」


「いいじゃん、俺、憧れてたんだよね」


そして、俊彦は昔流れていた台所洗剤のCMソングを口ずさみながら、私と手を繋ぎながら、スキップをしながら進み始めた。


「お、お二人さん、冬なのに熱いね」


「どうもどうも!」


俊彦は笑顔で答える。

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