《MUMEI》

首を傾げる俊彦に、華江さんは『当たり前よ』と言って笑った。


「オープン、来年三月だから」


(本当だ…)


華江さんが言う通り、パンフレットには『来年三月オープン予定』と書いてあった。


「太郎さん、そこの支配人と昔から仲良いの。
結構前から『娘の結婚式やるなら是非うちで!』って言われてたのよ、ね?」


華江さんの言葉に、まだ泣いている父はコクンと小さく頷いた。


「オープンと同時に、結婚式もやれれば、宣伝にもなるし、何より、支配人さんが蝶子ちゃんの写真見て気に入っててね。
『模擬挙式でもいいから』って何度も頼まれてたのよ、ね?」


また、父が頷いた。


「ありがとうございます、お義父さん!」


「お義父さんって呼ぶなあ!」


叫ぶ父に、俊彦は、『でも、お義父さんですよね?』と言って笑った。


去年と違い、俊彦には余裕があった。


「わかってたんだ…」


父は小さく呟いた。


「いつかは、この日が来るって頭ではわかってたんだ…」


「父さん…」


私は父に近付いた。


「でも嫌だ〜!」


父は私に抱きついて泣き叫んだ。


「…ね? クリスマスプレゼント送って良かったでしょ?」

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