《MUMEI》
本音と建前
引越した私は、相変わらず『クローバー』に仕事に行っていた。


「ねぇ、配達…やめない?」


咲子さんがそう提案してきたのは理由があった。


俊彦の家(今は二人の家)の台所は、かなり広く設備が整っていた。


「だからね。蝶子ちゃんの出勤時間を遅らせて、『シューズクラブ』に持っていくケーキや弁当を、そこで蝶子ちゃんが作って置いてくればいいと思うの」


(確かに…)


その方が効率がいい気がした。


それに、天気の悪い時や『シューズクラブ』のイベントで量が多い日の配達はかなり大変だった。


私は、咲子さんの提案を『シューズクラブ』の店長の俊彦に伝えた。


「反対だ」


「どうして?」


俊彦の答えは正直意外だった。


(『これで朝長く一緒にいられる』って喜ぶと思ったのに)


「公私混同はよくないよ。家に仕事持ち込まれたくない。

それに、朝作った弁当、昼食べるの、なんか嫌だ」


「そっか…」


事実、俊彦は仕事を家には持ち込まない。


今日の話し合いも、お互いの勤務時間内に、『シューズクラブ』の事務所で行われていた。


「じゃあ、私、『クローバー』に戻るね」


「うん…また」

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