《MUMEI》

あの日、私は父さんに連れられて、『靴の村居』に行った。


「最初、俺達いなかっただろう?」


「うん」


同い年だという雅彦も、その兄だという俊彦も、まだいなくて…


「蝶子は、靴を履かせてもらってたよね。こんな風に」


「そうだった?」


確かに、父に入園式で履く靴を選んでもらった記憶はあるが、ひざまずかれた記憶は無かった。


「あれは、俺の中では衝撃的だったのにな」


「ごめん」


私の中ではその後俊彦に会って、『足が綺麗』と言われた事の方が衝撃的だった。


「あれが、今の俺を『シューズクラブ』を作ったんだ。

俺、蝶子が来るまで『靴屋なんて地味だしダサくて嫌だ』と思ってたし」


「そうなの!?」


「そうなの。それで、商店街の女達に怒られてて、軽く女嫌いになりかけてたし」


「嘘!」


「まぁ、大人の女の人は好きだったけど…
まさか、年下に人生狂わされるなんて…
びっくり」


俊彦は、立ち上がり、私に手を差し延べた。


「別に、狂わせてないし…
私だって、俊彦、また好きになるなんて思わなかったし」


「好きじゃなくて、愛してるだろ?これから神様に誓うんだから」

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