《MUMEI》

赤高ハンド部顧問となった安本。


彼は学生時代全くと言っていいほど運動の経験がなかった。


やっていたのは体育の時間だけ。


彼の青春にスポーツというものはなかった。


昔から成績が良く、勉強ばかりしていた安本。


そんな彼がハンド部顧問になってもやる気などあるはずもない。


新任だから断れず、嫌々引き受けた部活の顧問。


そんな彼が初めて見た赤高の練習風景は鬼ごっこ。


遊んでいるようにしか見えなかった。


(こんな若い奴がコーチ?)


クロに挨拶をされた時も、見た目から偏見していた。


四角パス。


キーパー練。


3対3。


クロが初めてハンドボールを見た時に覚えた興奮を、


彼が覚えることはなかった。


体育館の使用時間が終わる。


(ふぅ…、やっと終わりか…。やけに長く感じたな。)


「じゃあ外集合!!」


「あ〜い。」


「え?」


思わず口に出してしまった。


まだ練習する気か?


「あの?」


「…」


「すいません。」


「あ、俺?」


(お前しかいね〜だろ。)


「タイム図るんでストップウォッチお願いしていいすか?」


「いいけど…、君は何するの?」


「あ、今日は僕も走ろうかなって。」


コーチ自ら?


おいおい…


何でもいいから早く終わってくれよ…


「わかった。任せて。」


「お願いしま〜す。」


このチャラチャラした感じ…


スポーツばっかりやってて全然勉強なんかしてなかったんだろうな。


「え?今日はクロさんも走るんすか?」


「おぅ。日高、関谷。負けたら罰ゲームね。」


「え〜!?」

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