《MUMEI》

『汚いけど、どうぞ。』




『…お邪魔します。』




私は、ももたの彼女に会えたのが嬉しくて少しハシャギすぎたのかもしれない…。彼女の気持ちを何も知らずに…。




町内会の祭りの実行委員をすることになったこと
七輪で一緒にサンマを食べたこと
幼稚園からの癖で今も、ももたって呼んでること…

…ももたとの話を永遠と一時間も話してしまった…。




『…あっ。ごめんなさい。1人でベラベラ話しちゃって…。ねぇ、サキさん。
…聞いてもいい?
どうして家の前で待ってたの?ももたの店に行けば、すぐに会えるのに…。』




私の問い掛けに、悲しそうに俯くサキさん…。




『会いづらくて…。
私、実は…先週末…桃太にフラれてしもたんです。』



『…フラれた!?
…ももたに?どうして…そんなこと一言も……。』




『私も理由が、分からへんくって…。
桃太、ここ最近お店が忙しいて、ずっと全然会ってへんかったし…。
毎日、電話で話すくらいやった…。
でも、先週の土曜日…初めて電話が無くて…。
心配になって次の日、電話したら、いきなり“別れよう”って……。
理由を聞いても言わへんのです…。
ただ…謝るばかりで……。咲良さん。
なんか知りませんか!?
心当たりあったら、教えて下さい!!』




サキさんは、せきをきったように、不安な気持ちを打ち明けてきた…。




今、吉沢さんが奥さんのところにいる私には、サキさんの気持ちが痛い程、分かった…。




“心当たりか……。
ん〜………先週の土曜日に連絡が無かったんだよね?……先週。
………先週の土曜日。
…………………………。
……………あっ!!”




そう。
先週の土曜日は私が、ももたに“サイテーなお願い”をした日だった…。




ももたは“あの日の事”を気にして!?
私は、目の前が真っ暗になった…。




『…咲良さん?
何か知ってるんですか?』




『………ごめんなさい。
……私…………私が。』




“私のせいだ!!”
そう確信した…。




サキさんにちゃんと説明しなくちゃ…私が全部悪い。ももたは、悪く無いって…言わなきゃ…。




そう思ったけど、言葉が出てこない…。




どうしたらいいのか…
なんて言えばいいのか…
悩んでいると、私の携帯がなった…。




“ももたからだ!!”




『もしもし〜咲良?
今日、店閉めんの遅なりそうやで、先、町会事務所に行っといて!』




『…ばかっ!
そんな事どうでもいいよ!今すぐ帰ってきて!!』




『何やねん!?
いきなりどないしたん?』




『…サキさんが来てる。』




『……サキが?
…………。分かった。
すぐ帰る…。咲良…悪いけど今日の会議…1人で行ってくれるか?』




『…うん。
そっちは私に任せて…。』




『……すまん。』




電話を切って30分もしないうちに、ももたは帰ってきた…。




『咲良…。
サキが邪魔して、すまんかったな。俺らちょっと二人で話しあるで、咲良は町会事務所の方、頼むわ。』




『…分かった。
それは、ちゃんと行く…。でも………。
サキさんから話聞いた…。私のせいだよね…。』




『…サキから何を聞いたんか知らんけど、
お前は何も関係ない!
これは、俺らの問題やから…。やから…ほっといてくれへんかな?』




そう言った、ももたの顔は、今までに見たことが無い悲しい顔…。




私がいた間、ももたとサキさんは一度も目を合わさなかった…。

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