《MUMEI》
アパート
「卒業式終わったの?」


「はい」

「えぇ」


俺と忍は満面の笑みで、目の前にいる女に嘘をついた。


この女が、新しいアパートの大家だった。


鉄筋コンクリートのアパートは築二十年で、住人は一人暮らしの男性が多かった。


そこに、高校生になる俺が入っても、違和感は感じられなかった。


「こいつの事、よろしくお願いします。これ、つまらない物ですが…」


「まあまあ、ご丁寧に、どうも」


忍が用意した菓子折を、大家は嬉しそうに受け取った。

「皆、いい人達ばかりだから、大丈夫だからね」


「はい、ありがとうございます」


大家の言葉に、俺は笑顔で頭を下げた。


(『いい人』ねぇ…)


中学の時のように、お節介な奴は困ると思った。


そして、俺達は最上階・三階の一室に通された。


中には、俺が送った荷物の入った段ボール箱が置いてあった。


「隣に挨拶に行くぞ」


大家がいなくなると、忍は菓子折を二つ出して、俺を連れ出した。


左隣は、大学生で、面倒くさそうに頭を下げた。


(こいつは大丈夫そうだな)

お節介をやくタイプには見えなかった。


そして、右隣は留守だった。

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